生命活動

旧ブログ(2010-11)

鈍色の弾丸 ブラステッド

自分はこの作品に胸を撃ち抜かれた。2011年、最もオススメしたい漫画。それがブラステッド


第一巻が出たのは2009年の11月末。書店で見かけたファッキンクールな(海岸列車 キッスより)表紙に先ず一発目の弾丸を胸に撃ち込まれた。乾ききった質感と漂ってくる暴力の気配。手に取らずにはいられなかった。しかし、初めて買う作者。買って失敗したくない人間なので、取り敢えず隣に並んでいた短編集である海岸列車を手に取った。いきなり単行本を買うよりは短編集を読んだ方が色々わかる気がして。結局、読み終えた翌日にブラステッド1巻を手にするのだけれど。

圧倒的な暴力を前にして、人は傍観者ではいられない。なんという謳い文句か。表紙を捲った1ページ目から、その暴力の扉は開いていく。ヤクザの世界に片足を突っ込んでしまった主人公穂村。話が進むにつれてその片足は両足となり、やがて全身へと変わっていく。彼は道を選ばなかった。傍観者であった。いじめに対する傍観者、ドラッグを受け渡した自分に対する傍観者、ヤクザとなっていく自分を見ている傍観者。ただ、見ているだけで否定をしなかった。否定することができたのは唯一、恋人の前だけであった。家族を失った男、裏切られた兵隊、ヤクザの幹部、そして穂村。暴力の渦中で彼らは一体何を思うのか。素晴らしい1巻であった。


そして昨日、完結巻となる2巻が発売された。完結巻が出るというのは楽しみだけれど、やっぱり寂しい。そんな気持ちで1巻に引けを取らない装丁の2巻に手を伸ばした。戦場で、道端で、この世界で、暴力は有効に機能している。大口を開けた獰猛な表紙と帯のその強暴な言葉が、再び自分を呑み込んでいった。

結論から言う。最高に痺れた。素晴らしい演出。文句なしの傑作だ。一読三嘆とはこのことだ。死の香りが立ち込める。どす黒くて凄惨な死。優しく穏やかな死。穂村は決着をつけたのだ。他の皆もそれぞれの決着を。この第二巻を読み終えたとき、どうしようもない喪失感と心地の良い余韻に包まれた。正に感慨無量。同時に二発目の弾丸を撃ち込まれた。この銃弾はこのままずうっと胸に残ったままだろう。


勿論海岸列車も凄く面白い。こちらもブラステッドと同じタイプの珠玉の装丁。ファッキンクールなばあちゃんの話からしょっぱいOLの話まで5本の短編が詰まっている。放送部を舞台とした青春短編キッスと、大家族を舞台としたマーガレットがお気に入り。マーガレットを読んでから大家族ものに対する認識というか考え方が変わった。まだイヌジニン―犬神人―と妖怪研究家ヨシムラは持っていないので、見かけたら是非買いたいと思っている。

新世代最注目作家・室井大資。この帯の言葉に嘘偽りは無い。とにかくオススメしたい漫画家の一人だ。今年中には新作連載があるということで、とても待ち遠しい。次の作品はかわいい読み切りだそうでそちらも楽しみ。ブラステッドには暴力だけでなくいとおしい優しさがある。根底にある優しさが滲み出ている。貴方もこの漫画を手にとって、胸を撃ち抜かれてみてはどうだろうか。きっとその弾丸は心臓の芯を貫くだろう。