生命活動

旧ブログ(2010-11)

メディア芸術祭に行ってきた

という訳で文化庁メディア芸術祭に行ってまいりました。ってことを行って直ぐに書いていれば良かったものの、なんだかんだうだうだとしていたら結構な日数が経ってしまった。しかし、日数が経ったと言えどその時に感じたものはまだ消えずに済んでいるので、思い出しながら書き起こしたいと思う。


先ず最初に訪れたのは東京ミッドタウン。お目当てはマイマイ新子と千年の魔法の上映。何と言っても無料というのは大きい。既に一度鑑賞した作品であったのだが、大きなスクリーンで観たいなと思ったので足を運んだ。これがもう大正解。同じ映画を短い期間の間に能動的に観るという体験は多分生まれて初めてだったのだが、とても良い経験になった。もし今後また良いなあと思える映画に出会った時は、積極的に短いスパンで──それこそDVD化を待つのではなく、またスクリーンに足を運んで──繰り返し観ようと心に誓った。

最初にこの作品を観た時には自分の中にそんなに強い印象は残らなかったのだが、この二度目の視聴によりマイマイ新子という映画の確固たる足跡がしっかりと残った。その最たる証拠として一度目には無かった涙がボロボロと頬を伝った。好きなシーンは後半のキモとなるタツヨシのくだり。木刀に明日を誓うシーンから既に目頭がじんじんとしているのがわかった。新子の方言全開の気迫に満ちた『明日もみんなで笑おうや!』という台詞も、ダムの決壊に大きな役割を担った。そして去り際に見せるタツヨシの笑顔に、また色々と溢れ出してくるのだ。

他に印象に残っている点は貴伊子が越してきた時の異郷感。なんだか少し全体が歪んでいるような感覚を味わった。貴伊子の足元付近から駅前の町並みを見広げる構図。案内人の少し変わった喋り方。タクシーのぐらりぐらりと揺れる感じ。かなり大雑把に書いたがそんな印象を受けた。それと、笑いながら悲痛な思い出を語る貴伊子にも強い印象を与えられた。この作品には死だとか別れだとかが結構出てくるのだが、それを負のイメージとして扱わずにあっけらかんとして描いている場面が少なからず登場する。かといってそれを軽んじているわけではなく、死や別れというのは大きな点となって現れている。

ランララララーラ♪ ランララララーラ♪ というラストに流れる軽快な挿入歌もとてもいい。聴いていると自然と笑みがこぼれる。細まった目から涙もキラリ。それからエンディングに流れる主題歌のコトリンゴのこどものせかいがこれまた良い。詞の風景が映像と伴ってそよそよと頭の中を吹き抜けていく感覚が素晴らしい。もし貴方がアニメや映画が好きで、まだマイマイ新子と千年の魔法を観ていないとしたら。それはとてももったいない。是非観てほしい。そして、出来れば、劇場で*1 *2


観終えた後は受賞作品展を見るために国立新美術館へ。シュルレアリスム展なんてやっていて面白そうだなと思ったのだけれど、入場料が必要だったのでやむなくスルー。料金といえばミッドタウンのレストランがどこも高い価格設定で、一緒に行った友人と顔を見合わせて苦笑い。俺達は昼食に4000円も5000円も支払えるほどブルジョワじゃない。地下一階の店は上階の店のようなふざけた値段ではなく、良心的な価格だったのがせめてもの救い。ミッドタウンで友人が富野を見たと言っていたが、実際その日に一般には公開されない部門会議がミッドタウンで行われていて、そこに富野御大が参加していたらしいので本物だったのかもしれない。見れなかったのが悔しい。

ところで、俺はメディア芸術祭に行く前に大まかな当日の計画を練っていた。マイマイ新子を見て、受賞作品を見回って、ustreamのプログラムである"今年度のマンガ部門を振り返る"を見て、また受賞作品を見回って終わる、という完璧なプランを立てたはずだった。しかし、計画は崩すために立てるとはよく言ったもので、"今年度のマンガ部門を振り返る"を見ることが出来なかった。それでもユーストリームアーカイブで見れば良いかーとだらだらしていたら、公開期日を過ぎて見れなくなってしまっていた。ショッキング! 正攻法ではないけれど、まだアーカイブは見ることが出来た。以前メディア芸術祭に触れた記事に片淵監督のインタビューのアーカイブのURLを貼っていたおかげで、そこから通り抜けることが出来た。未だこの穴は塞がれていないようなので(そもそも塞ぐことが出来るのかが疑問)、見たいプログラムを見逃したーという方は通り抜けフープとしてどうぞ。限定アーカイブと銘打っており、正直なところグレーな行為だと思うので伏字にしておく。

さて、何故見逃してしまったのだろうか。その理由が"マンガ部門を振り返る"を行っていた、ソーシャルメディアラウンジの場所の分かりにくさである。作品展では受賞された作品が入り口から出口まで紆余曲折しながらもU字型に、一つの部門ごとに区画分けされて展示されており、入り口から順番に、アート、マンガ、アニメーション、エンターテイメントという具合になっていた。基本的に一本道なので作品を見逃すということはない。それなのに何故、ソーシャルメディアラウンジの場所に気づけなかったのか。これがその問題の配置である。

どうであろうか。何故こんなにわかりにくいところに配置してあるのか! 言うまでもなくマンガ閲覧コーナーにも気づくとは出来なかった。メディア芸術祭に訪れた人の中には、同じように気づかなかった人が大勢居るのではないだろうか? まあ、こんなことを言っても後の祭り。というよりしっかりと明記されているパンフレットをちゃんと読まなかったのが悪い。それなのに配置の所為にするとは何事か! もしまた来年行くことがあれば、今度はちゃんとパンフレットを読み込んで見逃すことの無いようにしたい。


さてここからは各部門ごとに印象に残ったものを並べていく。
受賞作品まとめ
審査委員会推薦作品まとめ(アート部門の単独URLがないので必然的にアート部門になってしまった)


アート部門ではグーグルストリートビューの画像のみで作られたnight lessという映画が印象に残っている。『factory of dream-夢を作る工場』とRUSHという映像作品も。Edge of Love 3という写真作品もホラー感が素敵だった。font de musicも体験してきたので印象に残っている。アート部門といえばCycloid-Eの実物はミッドタウンで展示されていた。無機質な銀色の筒で構成された物体が不可思議に回転し、ぶわおんぶわおんと奇怪な音を反響させているその光景には恐怖感すら覚えた。ガンダムF91のバグや00のオートマトンのような。ustreamで一度拝見していたのだが、実際に見るとその異質さが際立っていた。

マンガ部門ではぼくらのの原画にビリビリと痺れた。圧巻だった。展示されていたのは11巻の原画が中心で、表紙をはじめとして、ジアースがレーザーを全身から発射するシーンや、一番最後のコマなど、どれもファンにはたまらないチョイスであった。また、気になっていた孤高の人の原画にも圧倒された。雪山の迫力をまざまざと見せつけられた。しかし、既刊14巻ということで中々手が伸ばしづらい。審査委員会推薦作品のコーナーには、小さなパネル一枚の展示ではあったものの、WOMBSや町でうわさの天狗の子3月のライオンなど好きな漫画がたくさん展示されているのはなんだか嬉しかった。

アニメ部門では四畳半神話体系とマイマイ新子。四畳半のスペースでは明石さんの驚愕する表情や、小津の憎らしくも愛らしい振る舞いを原画で見ることが出来たし、マイマイ新子のスペースでは映画とはまた違った一面を見せるタツヨシを見ることが出来た。学帽を被っていないというだけで印象がとても変わる。どこか弱弱しくて、純朴な少年。

エンターテイメント部門ではTEAMLAB HANGERが面白かった。ハンガー(服)を手に取ると、目の前のディスプレイにその服を使ったコーディネイトが現れるというもの。ISパレードで自分のアカウントを入れてこようかと思ったのだけれど、フォロワー数が千とか万単位じゃないと賑やかなパレードじゃないなと思ったので止めた。

出口際にあったかえりみちのアートスペースという場所では、来場した人が小さな透明のカードにメディア芸術祭に感じた思いを描いて、それを壁に貼り付けていた。そしてその貼り付けられた思いをコンピュータ上で処理し、ネットワークを構成して表現ネビュラを形成する、ということをやっていた。その壁に貼り付けてあった"石""破""天""驚""拳"の文字。凄く印象に残っている。一人で5枚書いたのか。はたまた5人で行ったのか。


このように見所がたくさんの文化庁メディア芸術祭。毎年開催されているので、興味を持った方は来年足を運んでみてはどうだろうか。その時は俺達のように展示場所に気付かなかった! というようなことにならないよう。