生命活動

旧ブログ(2010-11)

バニラスパイダー

今日は2010年に発売された少年漫画の中で、一番のお気に入りであるバニラスパイダーについて、何か書き残しておきたいなと思ったので記事にする。出来るだけ削るつもりだが、少々のネタバレとなる事柄を含むかもしれないので、未読の方はその点を留意していただきたい(読んだことのない漫画を読む前には一切その漫画の情報を頭に入れたくない! と言う方は、この記事を読むのをやめることをお勧めする。少しくらいなら、と言う方は暇があれば読んでほしい)。
そして、この記事を読んで少しでも多くの人がバニラスパイダーについて興味を持って、あわよくば手にとって読んで貰えたらな、と思う。


まだ1巻が発売される前、自分はバニラスパイダーと言う名をインターネットで目にした。良いSF漫画がないかなーと思って探していた頃だった。単行本が一冊も出ていないので、別マガのHPで絵柄を見ることが出来ず、作品紹介のみを読むことしか出来なかった。正直それだけじゃあ買うかどうか決められなかった。それでも単行本の発売日だけはメモしておいた。

別マガで最初に気になったのは進撃の巨人で、1巻発売日から何日か経った後に何度も単行本を探しに行ったのだが、近場の書店では見つけることが出来なかった。更に時が経って、バニラスパイダーの発売日が近づき、漸く表紙が見れるようになった。なんだか物々しい表紙で、自分が思い描いていたSF漫画とはかなりかけ離れていたんだけれど、惹きつける何かがあった。そうこうしているうちに発売日になって、近場の書店を回ったんだけど、どこにも売っていなかった。それでも、普段は行かない遠くの書店でやっと見つけることが出来た。ついでに進撃の巨人も売っていたので一緒に買った。


1巻を手にとって最初におおっと思ったのは表紙の質感。手が込んだ装丁だなあと思った。絵柄も独特でグロテスクでありながらもユーモラスで、作品の世界観ととてもマッチしていると感じた。設定も面白い。蛇口が武器になる漫画は今まで見たことがない。蜘蛛の巣というモチーフもいい。コレは単純に自分が蜘蛛が好きだからというだけなんだけど。同じ理由でタイトルも好み。作者はクトゥルフ神話からこの蜘蛛の巣というアイディアを拝借したようなのだけど、自分はクトゥルフ神話の知識がなかったので一人ではそこに気付くことは出来なかった。クトゥルフ神話についての知識があれば、更にこの作品を楽しめたのかもしれない。好きな女の子の為に侵略者と戦うという単純なストーリーなのだが、読者を飽きさせずにのめり込ませるのはまさに作者の技量の賜物である。随所にちりばめられた小ネタも面白い。全巻を通して展開されるおまけ漫画はコミカルでポップで少し切ない。

ただ惜しいなと思ったのは少年誌の単行本サイズであること。コマのサイズが小さいと見せ場の大ゴマに迫力が出ない。凄みのある小さなコマももう少し大きければな、と思うコマが多々あった。そこがもったいないなと思った。進撃の巨人もそうだが、青年誌の単行本のサイズで読みたいなあと思う。別マガ本誌で読んでいればまた印象も違ったのかもしれない。

一緒に買った進撃の巨人も同じ日に読んだのだが、自分はバニラスパイダーの方に強く心を惹かれた。確かに進撃の巨人も面白いし、最新刊まで買っている(後日ネタにします)のだが、バニラスパイダーという漫画の醸し出す雰囲気というかにおいが心を掴んで放さなかった。


そして今日、最終巻となった3巻を読み終えた。表紙の折り返し部分の作者のコメントや、あとがきを見るとどうやら打ち切りだったらしい。確かに2巻の中盤くらいから、物語が終盤にぐぐっと近づいているのを感じた。本誌は読んでいなかったが、そろそろ終わりそうだという書き込みもよく見ていたので、短い巻数でキッチリまとめるのだろうと思っていたのだが、それが打ち切りだったと言うのは悲しい。それでも、ある程度綺麗にまとまっている。ラストのエピローグ的なものには、心地よい余韻さえ感じた。だけれど、気に入った作品だっただけに思い残すものがあった。

先ず一つは伏線の回収が疎かになってしまったこと。バニラスパイダーとは一体なんだったのか。町の脈との相性とは? ギャバンは? ネタバレになってしまうので深くは書けないが、説明不足な点がいくつもある。敢えて説明をせずに読者の想像に任せるという手法もあるが、そうだとしても描写が欠落しているなと思わざるを得なかった。

二つ目は登場人物のバックボーンに深みが足りないということ。これは個人的な好みなのかもしれないけど、バタフライの面々や主人公のクラスメートや家族、津田さんに花織ちゃんなど、とにかくほとんどの登場人物についてもっとエピソードをあててほしかった。しっかりと掘り下げてほしかった。3巻の帯に落涙必至と書いてあったが、自分はこの所為でそこまでには至らなかった。

そしてこの二つの欠点は打ち切りではなかったとしたら解消されていたことだろう。話数があれば上記二つはしっかりと潰せるものである。2巻中盤以降の駆け足の展開になる以前は、丁寧に話を描ききっていた。あとがきにあったエピソードも是非読みたかった。打ち切りと言う形で終わらせるのではなく、作者が思い描いていた通りに終わらせることが出来たのなら……と悔やんでも悔やみきれない。


不遇の名作バニラスパイダー。打ち切りと言う幕切れではあったものの、作者の力量をひしひしと感じた。心に残る漫画の一つになった。今後とも作者の阿部洋一は追っていきたい。現在はどうやら別冊マガジンで新作を構想中とのことで、首を長くして待っていようと思う(でもやっぱり青年誌に行ってほしいと言う個人的な願望が……)。

この記事ではなんというか魅力を伝えると言うよりは、こうじゃなかったら……というような文章が多くなってしまったが、一番伝えたいことはそれでもバニラスパイダーは面白いということ。ここで第一話がほんのちょっぴりだけ試し読みが出来るので、もしよかったら読んでほしい。正直なところたった数ページではこの作品の魅力は殆ど伝え切れていないのだが、絵柄のチェックがてらにでも。本記事を読んで、バニラスパイダーに少しでも興味を持って貰えたのなら幸いだ。